エッセイ「閑土里西部譚 韓国一人旅」 Vol.1

jpg
ソウル市街

   ソウルYMCA主催のヨーデルコンサートに招待されて、羽田空港を旅発ったのは4月6日。9:30AMのJAL,30分遅れての離陸が飛行中更に遅れて予定より1時間も遅れて金浦空港には12:30PM頃着。「まだソウルは寒いぞ」と言われていたのでコートなど着て行ったが、東京と気候は殆ど同じでむしろ暑いくらい。税関の手続きも簡単に済み、出口に来るとMr. 金弘徹(Kim Hong Chul )とその友人が5?6人出迎えに来てくれた。1日早く来る予定が僕の都合で遅れたので、ホテルに落ち着く暇もなく、そのままTBCTVスタジオヘ直行。リハーサル中だったが、僕の番をずらしてくれていたので万事OK。打ち合わせもそこそこに、ぶっつけ本番である。MCの人はコメディアンらしく場内を湧かしている。
さあ出番だ。客層はかなり若い。中学・高校生が殆どといった感じ。挨拶代わりに、『マウンテン・デュー』を唄う。イントロを「ミーン、ミーン、ミーン」とセミの鳴き声からでる。バンジョーを存分に動かして、ハデにバンバンやって調子よく終わると、MCが、「ミーン、ミーンでどういう意味か」と聞く。韓国では「メン、メン」と鳴くのだそうだ。五弦バンジョーが珍しいのかMCが、どうして弾くのかといろいろジェスチャーをして笑わせている。何はともあれ、それではと『アリラン』を即興で、これが大受け。続いて『ワシントン広場の夜は更けて』そしてフォスターメドレー、最後に『フォギーマウンテンブレークダウン』、スリーフィンガースタイルの早弾きに彼等は驚いたのか、わからないのか惜しみなく拍手を送ってくれた。そして金さんと一緒に『スイスの娘』を交互に唄い、繰り返しの早くなるヨーデル、またまた拍手喝采。 寝不足にしては声が良く出たのもだと自分でも驚いたくらい調子も良かった。マニラと違って、顔、姿、形はまるで同じ。言葉さえ同じだったら。何言ってるのかチンプンカンプン。でも僕にとっては、見知らぬ土地での経験は何よりも優ると信じている。
 
4年前頃、熊本公演の折、熊本YMCAの小山哲夫氏から電話を受けた。「国のヨーデル歌手の金弘徹が近く来日するが彼の要望で是非会ってほしい」とのこと。それから数週間して小山、金両氏が我が家を訪れる。彼は一枚の紙切れを差し出した。そこには、灰田勝彦、ウィリー沖山、大野義夫の名前が書いてあるではないか。韓国ではヨーデル歌手は彼一人とか。「なのに日本には3人もいていいね」と羨ましがっていた。僕のヨーデルはどちらかといえばアメリカのウエスタンスタイルですが、彼のはヨーロッパのアルペンヨーデルで、勉強のためスイスに数ヶ月いたそうです。
話も弾んで彼はギターを、僕はバンジョーを持ち出して日韓それぞれお国柄の歌など飛び出して最高潮。彼は僕のレパートリーの「スイスの娘」を日本語で、それも何とまあ僕の詞を慣れた口調でニヤニヤ僕を見つめながら得意気に唄ってるではありませんか。
「どうして僕の詞を、どこで覚えたのか」とすかさず聞いてみると、彼は待ってましたとばかりにこう答えた。彼の友人の李仁禎氏が僕のEP(スイスの娘他4曲入り)をなんとベトナムで買って、それをオミヤゲに貰ったそうだ。どう回り回ってベトナム迄行ったのかは知らないが。東南アジアでは海賊盤が出回っているそうなので「僕のもその種のものか」と聞いたら、「いやいや本当の本物メイドインジャパン」には一同大笑い。
彼は記念に彼のLPをくれた。チンプンカンプンだったが、今回のソウルの旅のお陰で何とか少し読み書きが出来るようになった。発音は英語にもないような音があって難しいが、字はとても合理的且つ簡明である。漢字においても日本のように同文字をいろいろ変えて読まない。だから「この字句てよむの」なんて事はない。「日本ではどうしてタクサン読み方あるの。それ判らない」と言われ、「なるほどもっともだ」と感心したりして。日本もその点改正の必要がありますよね。

jpg
左:キムホンチョル・中央:大野義夫

日本にいる時はいつも寝るのが明け方、従って起きるのが午後と決まっている。がしかしソウルに来てからは何と朝9:30起床、10時朝食、11時?3時リハーサル。そして夜はコンサートのアピールのためあちこちと挨拶に、ラジオ番組出演にとスケジュールはぎっしりである。ラジオの場合は公開放送が多く、小さなスタジオに若者がぎっしり、熱気で中はムンムン。唄う方も大変だけど見てる方も楽じゃないと思う。戒厳令(0時?4時)のお陰で深夜放送なんて番組はないので、その点仕事は割りと早い時間に終わるので助かった。
だから放送が終わってからの夜の巷歩きもまた楽しい。串に刺したぎんなん焼き、訳の解らぬ屋台が縁日のように並んでいる。うっかり「これ何かな?」なんて立ち止まったら買わされてしまうので、ゆっくり歩いて横目でチラッ!これが一番である。
こちらに来てからやはり本場の焼肉料理には毎回舌鼓を打った。ご飯は麦飯、ビビンバ、コンタンなども日本とは大分違う。何てったって本場物はうまい。キムチはタダ、言う事なし。「日本ではキムチが200円だ」と言ったら、「いくらでも食え」とドンブリー杯出されたのには驚いた。
それとバスが多いのにはたまげた。山の手線の電車のように10数台連なってバス停に止まる客を降ろし、乗せるとそのまま連なるように発車する。だから自分の乗るバスが何処に止まるか判らないので駆け足で乗らなくては駄目だ。ホテルの上から見ていると皆それぞれのバスに乗るのに懸命である。老人にはとても無理でしょう。バスエリアには○○行きの決まった場所がない。「どうしてないのか」と尋ねたら、バスが多すぎて指定のバス停に止まっていたら混雑してどうしようもないそうだ。バスはとぎれる間もなくやって来る。本当にバスだらけだ。バス代は18円75銭とこれまた安い。

つづく.....


◆◆◆ バックナンバー ◆◆◆
【閑土里西部譚 韓国一人旅」 Vol.1】
【閑土里西部譚 韓国一人旅」 Vol.2】