エッセイ「閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.3

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サンミゲル ビール

 
  再度オロンガボを訪ねて
 11月7日から12日間、フィリピンはマニラから約100km離れた Subic Bay のオロンガボ市にある米軍基地のクラブのショー出演のための再訪である。前日が台風だったせいか、その余波で一寸荒れ気味だがおかげで涼しくて助かった。
 途中洪水で交通困難とか。無理を押し切って何とか行ける処まで行こうと夕方6時マニラを後に一路オロンガボへ。カントリーロードは街灯なんてものは殆どなく真っ暗闇、それを90キロでバンバン飛ばす、一寸ハンドルをあやまればオダブツだ。「アイム、カミカゼドライバー、イチバン」とへんな日本語を使って得意気である。僕は半ばあきらめ、後部座席に横になってジーッと我慢する。
 ついてる事に水は殆どひいて難なくOK、予定より1時間も早く、2時間半後の8:30に、プラザホテル3F111号室に落着く。戒厳令(0時?4時)ぎりぎりの5分前迄大通りは賑やかで、まるでお祭り騒ぎ。0時になるとけたたましいサイレンと共に人も車も一切交通遮断、騒音は全く消え正に草木も眠る丑三つ時、時折ネコや犬が我が物顔に罷り通る。一寸信じられぬ状況である。へたに出歩くとポリスカーに捕まり公園広場に連行され、朝4時迄そこを動けない。そして3回目はブタ箱ゆきだそうだ。
 クーラーの音がやけにうるさい、涼しいのでスイッチを切って1時頃寝る。何しろ静かだ、そのせいかぐっすり、どのくらい寝たろうか車のクラクション、流れる音楽、その騒々しさに目が覚める。時計を見るとまだ4時一寸過ぎ、戒厳令が終わるや否やもう外は活動開始、この調子では先が思いやられる。睡眠不足で声がヨーデナクなっては大変だ。仕方なくうるさいクーラーを付けその音に耳を慣らす事によって外の雑音もさほど気にならなくなった。念には念をと耳に栓をして万事OK。お陰で電話のベルも聞こえずピックアップタイムに遅れ、あわてた事もあった。
 
  今回のバックハンドはプレイ・メイツ、リーダーのテディ(リードギター)、アーサー(サイドギター)、ジュン(ドラムス)、オーディ(べ一ス)のフィリピン人の4人グループである。リハーサルが朝10時からと聞いてびっくり。慌ててマネージャーに頼んで午後2時からに変更させる。前に一度来ているし、要領も大体判っているので、その点は落ち着いたもので、気楽に約2時間で終わる。何しろ1回ショウをやってから駄目押しをしょうではないか……と。 1回目のショウが7:30、「スカイクラブ」、2回目は「マリナーズクラブ」、久し振りのべ一スキャンプのショウだったけど、調子よく乗ってゴキゲンでした。「ロッキートップ」、「朝焼けの少女」、「グリーングラス」、「カントリーロード」など全員でコーラスをつけてくれるので、曲の感じもぐっと盛り上がって気持ち良く唱えました。 ショウの合間にリクエストを取ると必ず「日本の曲をやってくれ」とくる。そんな時の用意に今回はELE?Y0(電気ヨーヨー、銀座、新宿などの盛り場でオバサンが赤・青と美しく光るヨーヨーを売っているのを見掛けた事があるでしょう)を持って来た。これを唄いながら上げたり下げたりやると、とても綺麗で珍しさも加わってか皆大喜び。ショウが終わると楽屋に来て、「ぜひ譲ってほしい」と来る。「毎回ショウで使うから駄目だ」と言うと「帰国する時でいいから」としつこい。何とかマネージャーに断ってもらったけど、他のチェンジバンドの連中やクラブの人達も「Souvenir(記念品)にくれ」とうるさい。西の国ならヨーロッパはイタリア、東の国なら東洋のフィリピンというくらい。彼等男性は、女性を口説くそのしつこさは世界一と聞いてはいたけど、すべての点においてそんな感じ。真に受けたフィリピン人は、対日感情が悪いのではないかとよくいわれるが、とんでもない。彼等はとても気安く、フレンドリィでかつ親切この上ない。

   フィリピンにはSan Miguel サンミギェールと云う名のビール、この1種類しかない。日本のように大瓶、中瓶なんてない。オール小瓶だけ、サッポロジャイアントのような特大瓶の話をすると冗談を言ってると思って本当にしない。ウソついていると思われるのもシャクだから冗談に今度くる時もって来てお前にあげるよと言ったら、本当か!と大喜びだ。うっかり調子にのってシマッタと思ったけれどもう遅い。あんなもの持って、もし落として割ったりでもしたら、アワだらけでどうしようもないものね。サッポロジャイアントを両腕に抱えた写真を撮り、それを送って何とかごまかさなくては…… 。
ビールを注文するとグラスに必ず氷を入れてもってくる。冷えていないのかと思うとかなり冷えている。僕が氷をすてると「どうして」と云う。彼等は習慣らしいが、氷がとけてうすくなったビールなんて飲めたものじゃない!でもサンミギェールはとてもホップのきいたおいしいビールだ。ショウの終わったあとはまた格別である。
日本では殆ど部屋の掃除はオバさんの役目だが、こちらでは18、9才の若者である。いい若い者がもっと良い仕事がありそうなものだが、併しこれもお国柄仕方ないものか。ホテルのボーイ、ウエイトレスなど1時間の手当は1ペソ(約43円)、1日8時間労働で8ペソ(344円)だから1ヵ月約9、000円弱しか稼げない。でも2年前に比べると倍になっている。日本の物価高には彼等はただ驚くばかりである。その反面、我々にはとても住みよい、生活しやすい国ともいえる。果物は豊富にあるし、僕の好物のパパイヤなど100円でバカデカイのが買える。ヤシの実も1ペソで大きいのを一つナタで端を割って中の汁(サトウ水に似た味)を飲んだあと真二つに割って、スプーンで白いゼリー状のものを食べるのだが、僕はそれが口にあってうまい。日本では食べられないのが残念だ。2、3年落着いて住んでみたい、そんな国である。

.つづく.....


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【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.1】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.2】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.3】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.4】