エッセイ「閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.1

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バックバンド「The Lowmens」と一緒に1枚
 
  A HAPPY NEW YEAR 1973年、今年も皆さんと共に、大いに唄いまくります。どうぞよろしく!先月は海外演奏旅行のため原稿が間に合わず大変失礼を致しました。バンジョー片手に(4)……を今回からしばらく休みまして、去年の11月、2週間に渡る、フィリピン一人出稼ぎの旅の様子を書いてみたいと思います。晩秋の日本からマニラ空港のタラップに出るとムッとする何とも言えない暑さが肌を震わせる。外は31℃とか。マニラには2度目。迎えの車に乗って目的地オロンガポ市へ。日本にいる時に同行のマネージャー秦氏から聞いた話だと1時間で着くよ……が何と4時間半もかかった。数ヵ月前途中の道路は洪水に見舞われ一時は通行不可能だったそうで、未だに復旧作業がはかどらず、道路は凸凹状態、大型のクーラー付き米軍といえども当地に着いた時はクタクタでした。後から聞いた話だと「道がよかったらの話で本当の事を言ったら来てもらえないから、来てしまえばこっちのものだ」と、まあこの辺に食い違いがあったらしいです。Admiral Royal Hotel 304号室に。すぐシャワーと思ってもなかなか出てこない。ボーイに文句を言うと「Sorry」の返事だけ。入りたい時は湯が出ず、そうでない時に出たりして、ナゾナゾみたいでまったくどうしようもない。ホテルで夕食を済ませた後、エージェントの人達と町に出た。まるでお祭りか縁日のようで、悪く言えば戦後の日本のヤミ市である。人と車で賑わい、フーセン、ヤキトリ(日本式に言えば)、タバコ売り、サトウキビ、マンゴ、魚、小猿(1匹500円位)等……後は訳の判らぬ物が店頭にあふれている。このマグサイサイのメイン通りに「Grand Ole Opry」、「Sukiyaki」、「Fuji」etc.日本的名のクラブが沢山あって、その殆どがC&Wバンドが入っていて、その数ざっと40数本というから羨ましい限りである。
 
フィリピンのオロンガポ市での一夜も無事明けて、今日(11月18日)から始まる「YOSHIO OHNO SHOW」オンステージのリハーサルが、午後から行われた。僕の伴奏をするフィリピンバンドのグループは「THE LAW MEN,ザ・ローメン」リーダーはROLAND(ローランド)リードギター、JUN(ジュン)リズムギター、ALLAN(アラン)ドラム、SAMMY(サミー)ベースの4人組。彼等はC&Wからフォーク、ロック、ラテン……と、そのレパートリーの幅広さには驚きました。ですから打ち合わせもスムーズにいき、バンジョーの曲とヨーデルに少し時間がかかったくらいで、3時間足らずして一応終わり、何となく気持ちも落ち着きホッとしました。SHOW TIMEは毎夜7:00と9:15の2回で、ステージはその日によって違うそうです。日本のクラブなどのショウはせいぜい15分?20分程度で、余り長いと客が酒を飲まないし、売り上げに差支えるからなるべく短くしてくれと言う所さえある。しかしあちらのSHOWは、そんな生易しいものではありません。SHOWといえば1時間が「コレ常識!」である。以前にハワイのロイヤル・ハワイアンホテルで、キングストン・トリオのショウを見た事がある。30分で終わったかにみえたが、アンコールの連続で更に1時間、合計1時間半に渡るあの素晴らしいショウは、今でも憶えています。 あれが本場のショウなんだと! 1曲が3分として20曲唄ってやっと1時間、2回ショウだと40曲になる。もしそんなに声を出し続けたら、いくらノドが丈夫だって3?4日もすればいかれてしまう。時に僕はヨーデルを出すので人一倍神経を使う。ヨーデルがヨーデなかったらどうでしょう。実際問題として、ステージではそんな冗談を言ってる場合ではない。「ショウほど素晴らしい商売はない」という映画があったが、「ショウほど大変な商売はない」のではないでしょうか。

つづく.....


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【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.1】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.2】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.3】
【閑土里西部譚 フィリピン一人旅」 Vol.4】