エッセイ「閑土里西部譚 バンジョー片手に」 Vol.15
何しろ百年前のスクラッグス宅の家宝とも言うべき手作りのシックで豪華なベッドの寝心地はゴキゲンで演奏旅行の疲れも加わってグッスリ眠れた。7:30の起床は僕には早かったが、目覚めは良かった。朝食後直ぐにスクラッグス氏とWSM-TV局へ。30分のビデオ撮りで、それもいきなり本番である。「まさか」と思ったが、レスターが呼ぶので出て行くと、僕に「何か一曲唄え」と言う。戸惑っているうちに「Columbus Stockade Blues」のイントロが始まっているではありませんか。フォギー・マウンテン・ボーイズの面々がニコニコ笑って、「さあこっちにおいで」と招いている。まさかと思っていただけにもう汗びっしょり、「これも初めから台本どおり」と聞いて、前もって知らせてくれればいいのにまんまとそれにひっかかってしまった。その後、彼等の伴奏で「Cabin in the pine」、「We'll meet again sweetheart」、「Columbus Stockade Blues」etc. 6曲程収録する。そのテープを直ぐ堀威夫氏(当時スウィング・ウエストのリーダー、現在堀プロ社長)にエアメイルで送る。“グランド・オール・オープリ・ショウ”は毎週土曜日の夜、催されるが、その前日の金曜日の夜は放送局のホールで前夜祭とも言うべきウェスタン・ショウが行われる。マーサ・ホワイト・ミルスの支配人スティンソン氏に連れられて、ベスパーさんと前から5列目の特等席に座る。日本にいた時、写真でしか見られなかった、ジム・リーブス、ミニー・パール、ハンク・スノー、ジョージ・モーガン、ルーヴィン・ブラザース、ロイ・エイカフ、グランパ・ジョーンズ、etc. 次々に紹介され、やっと自分が世界のウエスタン・ミュージックのメッカにいる事を再確認した。
僕にとって一生忘れる事ができない運命の日、5月7日は遂にやってきた。口笛、大歓声の中に、“グランド・オール・オープリ”の華やかな開幕のベルが鳴る。第一部、7時30分から8時迄のペット・ミルク社提供のショーからスタートした。シム・リーブスを中心に、カール・バトラー、ビル・アンダーソン、ビリー・グラマー等を舞台の袖でもう夢中なって見ていたが、どこか落ち着かぬ僕に、フォギー・マウンテン・ボーイズの連中が、気を使っていろいろ話しかけてくれた。ジム・リーブスは最後に僕の好きな『Four Walls』を唄った。思わずジーンとくる。そして8時ジャスト、第二部フラット&スクラッグス・ショウのオープニングテーマソングのCMをWSM局の名アナウンサー、ティー・トミーが、「マーサ・ホワイト・フラワー・ミルス提供」と紹介する。さすがCMソングもマウンテン調で軽快そのものだ。一曲目は彼等の最新作の『I won’t be hanging around』を唄う。会場は折からこの日“オープリ”を見学に来た地方のハイスクールの学生達の声援でわれんぱかり。次いで紹介されて登場したのは、女性セイクレット・シンガー、御馴染みのマーサ・カーソン。凄い迫力ある唄い方で、場内を沸かす。MCのティー・トミーにさんざん冷やかされ、舞台の袖に引っ込むと代わって出て来たのが、ユーモラスな5弦バンジョーのコメディアン、グランパ・ジョーンズ、舞台裏でぶつかりそうになり「ゴメンなさい」と日本語で僕をびっくりさせたその人が彼で、「日本に一度行った事がある」と言って、そこで握手を交わしたけど、大変愉快なステージそのままの人だ。その後、フラット&スクラッグスが再び登場『I'm on my way』を抜群のコーラスで唄い終わる。さて、いよいよ僕の出番となった。
....つづく
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