司会のティー・トミーが「皆さん、今夜ここで珍しいゲストを御紹介致します。はるばる日本からナッシュビルを訪れた青年で、名前はヨシオ・オオノ。私自身、数日前から付き合っておりますが、大変内気で、はにかみやの、私達がいつも隣りの家で見掛ける、ごく普通の青年で、何等変わった事はありません。日本においてはエルヴィス・プレスリーと同じような人気を持つ彼は、驚いたことにアール・スクラッグスのレパートリーは殆ど演奏出来、そして唄う事が出来ます。私が『何処でフォギー・マウンテン・ボーイズのレコードを手に入れたのだ』と聞いたら、『東京の何処でも売っているさ』と答えました。全く驚いた事ですね。さあ、皆様とにかく、逢ってやって下さい。ヨシオ・オオノです」今までシーンと静まり返っていた観客はこの時初めて歓迎の拍手を送ってくれた。この晴れの日の舞台に登場した僕の服装は、チャコール・グレイの縞のスーツ、ネクタイはアール・スクラッグス夫人から心を込めて贈られた素敵な赤い刺繍入りのカントリータイ。WSM局の関係者や他のバンドの人達はやたら太い旧式のズボンをはいているのに対して、僕は日本で作った当時はやりの裾口8インチのズボンが面白いほど対称的だった。『コロンブス・スタッケイド・ブルース』のイントロが始まる。無我夢中、ただ力強く唄い出した。ワンコーラスの終り頃になって、それが生粋のウエスタン・ソングと判った四千人の観衆は今度は熱狂的な拍手を。ヨーデルパートに入り、得意の喉を披露する頃、場内は歓声と掛け声・口笛で殆ど自分の声が聴き取れない程。ツーコーラスに入る前、僕がタイミングよく「アーハァー」と声をかけたので、場内はここでどっと爆笑。日本人が本場のウエスタンを唄うだけでたまげるのに、日本民謡の「アラエッサッサ」調子で「アーハァー」とやったので彼等は「まさか」と思ったに違いない。
見事なレスターとアールの素晴らしいコーラスとバックに助けられて、唄い終わった時には前にも増して物凄い拍手!歓声! この“グランド・オール・オープリ・ショウ”はスポンサー付きで正確に放送されているのでアンコールは殆ど出来ないそうだ。一度舞台の袖に引っ込んだ僕は、MCのティー・トミーに再び呼び出され、何だかちんぷんかんぷんだったが、とっさに終りのヨーデルの部分を唄い出した。さすがフォギー・マウンテン・ボーイズはタイミングよく、打ち合わせたかのようについて来て、これ又、エンディングもドンピシャである。拍手!拍手!拍手!! 一番前に座っていたベスパーさんも隣の婦人と手をあげて喜んでいた。後から聞いてびっくり。その御婦人はエルィス・ブレスリーのマネージャー、パーカー大佐の夫人とか! もう汗びっしょりで舞台裏に戻ったら、ハンク・スノウ、キティ・ウエルズ、ファリン・ハスキー、ハンク・ロックリン、ルーヴィン・ブラザース、スキーター・ディヴィス、ミニー・パール、カール・バトラーetc- C&Wファンなら羨ましい程の面々が、僕に握手を求めて来てくれた。もうただ感激の余り、「サンキュウ」の繰り返しであった。
その夜のプログラムを一寸紹介すると、Jim Reeves Show 7:30〜8:00 & 10:15〜10:30. Flatt & Scruggs Show 8:00〜8:30 & 10:30〜10:45. Roy Acuff Show 8:30〜9:00 & 10:00〜10:15. Poter Wagoner Show 9:00〜9:30 & 11:30〜11:45. Hank Snow Show 9:30〜10:00. Johnny & Jack Show 10:45〜11:00. Wilma Lee & Stoney Cooper Show 11:45〜12:00
何と4時間半に渡る、このショーも「アッ」と言う間であった。