エッセイ「閑土里西部譚 バンジョー片手に」 Vol.18

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  大野義夫、アールスクラッグス、べスパさん、T・トミー(MC) 
 
    ミセス・スクラッグスの自慢の手料理でディナーを御馳走になり、十分満足した我々は彼女の運転でナッシュビル空港へと急いだ。次男坊のランディとアンクル・ジョシュの娘リンダの二人も一緒に。ランディはとても人なつっこい顔にソバカスの沢山ある可愛い坊やだ。ランディより少しおねえさんぽいリンダはとてもキュートで、大きくなったらかなりの美人になるのではと気になる娘であった。空港で待つ間、一緒に写真を撮ったり、日本の話をしていたが、二人に「今度いつ来るのか」としつっこく言われ、返事に困っていると、「来年又来るよ」とベスパーさんが、脇から言ってくれてほっとした。ナッシュビルで逢った人達は皆良い人、よく面倒をみてくれたし、僕は大変幸せでした。彼等達とも別れ、イースタン・エアラインで、8:10PMにナッシュビルを離陸。インディアナポリスに11時半着、ここで2時間待って、ユナイテッド・エアラインに乗換え、1:25AMシアトルヘ向かった。直行便が無いので何しろ疲れた。うとうとしているうち5時過ぎにシアトル空港に到着。時差が何と3時間あった。早速、タクシーで8605N.E.(ノース・イーストの略)のミセス・ディーン宅へ。彼女はまだ寝ていたらしく、ドンドンドアをノックすると電報かと思って、寝ぼけまなこで出て来たが、僕とベスパーさん(初対面)だったので、びっくり。「一寸待って」と急いでドレスチェンジしたが、その慌てようといったらなかった。だけど彼女はもうニコニコのエビス顔。コウフン性の彼女はエキサイトして話は次ぎから次ぎへと……それはもう大変! 機中数時間の睡眠の僕はいつの間にか寝てしまった。目が覚めるとウィラー先生も来ていて更に話は最高潮! さすがのベスパーさんも疲れがみえ可哀相な程だった。
  2、3日はゆっくりして行くはずのベスパーさんは、突然、「飛行機の都合で帰る」と言ってタクシーをコール。タ方シアトル空港へ向かった。僕は見送りに行こうと思ったが、車もないし、大変なので、ミセス・ディーンと玄関先で別れを告げる。今朝来たばかりなのに、何とせわしない。10時間足らずで行ってしまった。彼女はとてもがっかりした様子だった。 その夜は久し振りにぐっすり寝た。だから調子は上々。バンジョーのレッスンもスムーズ。そんな数日後の夜、ミセス・ディーンに「ヨシ! 御婦人から電話よ」と言われ、電話を取ると何とニール・セダカではありませんか! 彼の歌は、かなり高い声だが、電話で聞く声はもっとかん高い。だから彼女は女性と聞き間違えたらしい。「日本ではワンダフル・タイムを過ごした。ベスパーさん、堀さん達がよろしくって。バンジョーはいかが? これからニューヨークヘ行きます。近いうちに逢いましょう……」と数分間話をした。日本での公演を終えて、帰国の途中、シアトル空港からわざわざ電話をという次第。電話を切ってミセス・ディーンに「今のは男性からです」にびっくり。「彼はジャパニーズか」って。「ノー、ノー、アメリカ人です」と僕の方が驚きました。セダカ・タナカ(田中)……何となく東洋的発音が彼女には日本人と思えたらしい。結果的には、彼女はアメリカ人でありながら、アメリカのニール・セダカを知らなかったのでありました。僕はニールのヒット曲『恋の片道切符』、『恋の日記』、『オーキャロル』etc. 唄ってみたが、まるで反応なし。”その名を西部に轟かす” いやいや全米に轟かすには大変である。改めてアメリカの広大さに驚いた。

....つづく


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