エッセイ「閑土里西部譚 バンジョー片手に」 Vol.2

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天気のよい日は庭にでて練習 |
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オーストラリアでの生活も数ケ月たつと大分馴れてきて、休日には隣りのフィリップ君(16才、身長182cmとバカデカイ)と一緒によく電車にのって、あちこちと連れていかれたものです。電車と云ってもかなり旧式で、ドアは手で開けないと駄目、日本のきれいな電車を見せてあげたい位。バスはワンマンカーで空いているうちはいいが、だんだん混んでくると特に御婦人達が乗ってきたら「プリーズ」と云って席をゆずらなければならないその点はレディファーストが徹底している。だから時々奥の隅に座ってねた振りをして乗り過ごした事もあって、それ以来やはり「プリーズ」で立つことにした。
学枚から帰ってからの復習はいっも庭の芝生で日光浴をしながら、チンタカチンタカやったものです。夕方近くなると、クックバラと云う笑い鳥がそばにやってきてパンジョーの音に合わせて大きな声で「ワュハアハア」と豪傑笑いで合唱してくる。それが5、6羽になるともう駄目でレッスンは中止である。その時は好物の魚の切り身をもってきてあげると、喜んで側によってくる大変フレンドリーで可愛いい、ついあげすぎて猫や犬の分がたりなくなっておこられた事もありました。
彼等も利口でパンジョーをひいているとエサをもらいに必ずやってくる。僕も居候の身故そうもエサをあげられず、仕方なく家の中でパンジョーをひかざるを得なくなる事もしばしばでした。ヴァージニアさんの母エリオットおばさんが、よく猫をひざにかかえてノミ取りをやっていると思ったらダニ取りで、それをビンの中に入れている。それが何と一匹40円で病院で買ってくれるとか、真のBush(ヤブ)にダニが沢山いて犬や猫にたかっている。ほっておくと血をすわれて病気になるので、ヤブから帰ってくるとすそぐとらねばならない。味をしめた僕はクックバラのエサ代のためにダニ取りが日課になってしまった。
一時フォークソングなどでよく歌われたレモンの木(Lemon tree)P・P・M・トリニロペスの唄をラジオでよく聞いたものですが、シドニーではどこの家の庭にも必ずレモンの木が植えてある。一年中花が咲いては実がなるので、いつでも新鮮なもぎりたてのレモンを食べられると云ってもミカンやオレンジのようなわけにはいかない。歌の詞にあるように「レモンは優しく花は咲いたけど、実る果実は甘くはない・・・だから坊やも大きくなったらきっと恋をするだろう、女性はレモンのように美しく香りも良いけれど、中身はすっぱいのだぞ・・・!」外見には惑わされるな、そんな歌である。僕自身外国をあちこち回ってExperience teaches 即ち「人は経験で賢くなる」を知った。だから女性をみるとレモンを思い浮かべ、特に気を付けるよう心掛けている。ウソツケ!(影の声)
ヴァージニアさんは子供がいないせいか、僕の面倒を良くみてくれました。週末にはよく客をよびパーティーが開かれた。割と料理の得意な僕は日本から送られれた材料をもちだしては、「天ぶらパーティー」、やら「すきやきパーティー」と皆に喜ばれたものです。こちらにきて初めの頃は、スプーンやフォークでは面倒と箸を使ってハンバーグなどの肉を切ったり、コーンや豆類を何気なく食べていたら、箸を知らない彼等にはどうにも不思議でならないらしく、やがて俺にもやらせろと箸を持ったはいいけれど、物をつかむどころかまるっきり駄目、それでもやっとつかまえて得意になったのも束の間、口許の手前で落ちてズボンが台無し、そして大爆笑、家族揃っての夕食はこんなわけでとても楽しかったです。ですからパーティーでは僕はいつも著を使ってのグリーンピースを百発百中、口に入れる。ガンプレーならぬその早業の妙技に彼等はただ唖然とするばかり。パンジヨーの指使いだけではないんだね、なんておだてられたりして一生懸命やったものです。
....つづく
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